糖尿病療養に対する心理的・行動科学的支援の実践

糖尿病は、苦痛と生活の制約を伴う代表的な慢性疾患のひとつであり、患者さんには様々な心理的・行動的問題が起こります。当科では、内分泌・糖尿病内科と協働しながら、糖尿病療養における心理的ケアの取り組み(「健康カウンセリング」と呼んでいます)を行っています。
 
■糖尿病の療養における心理的ケアの必要性
 
糖尿病療養は、患者さんに大きな心理的な負荷がかかり、抑うつ、不安、怒り、動揺などの心理的反応につながりやすくなることが指摘されています。糖尿病の状態が良好に維持されていても、日々のセルフケア(食事療法、運動療法、服薬アドヒアランスの維持)の継続自体も、患者さんにとっては強いストレスとなり得ます。
 
また、糖尿病と精神疾患の併存(特にうつ病)については多くの報告があり、それらがセルフケア行動の減少などにつながりやすくなります。さらに、病気以外の日常生活におけるストレスが、療養行動にネガティブな影響を与えることも少なくありません(図)。
 
糖尿病の療養における心理的ケアの必要性
 
このように、糖尿病が患者さんの精神状態に与える影響と、患者さんの精神状態が糖尿病治療に与える影響の双方向性が考えられ、心理的なケアが必要となります。「糖尿病に対してどのような気持ちや苦痛があるのか」、「病気や治療が生活にどのような影響や支障を与えているのか」などを教えてもらいながら、気持ちや生活に沿った療養の相談を行っています。
 
■糖尿病療養に行動科学を生かす

また、他の病気の治療に比して、糖尿病療養では患者さん自身に求められることが格段に多いのもひとつの特徴です。
 
私たちは患者さんに、主に
①食事療法(例:野菜を食べる)、
②運動療法(例:ウォーキングする)、
③薬物療法のアドヒアランス(例:注射を打つ)
の3つへの取り組みを望んでいます。
 
すなわち、これらはすべてが“行動”であるという共通点を持ち、医療者は患者さんに新たな“行動”が生起し、維持されることを期待しています。
 
我々人間は、日々行動の選択をしていますが、その選択には、そのときの環境や身体感覚、気持ち、考えが影響を与えています。したがって、適切な行動選択の頻度を高めるためには、この行動の周辺要因のアセスメントをすることが有用であり、こうした分析とそれによる治療を可能にするのが、行動科学に基づく認知行動療法です。
 
当科では、行動科学的視点から目標とする行動について患者さんと一緒に振り返り、療養行動がより取り組みやすいものになるよう相談を行っています。

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